<クローン病>
Crohn's Disease



診断のポイント
【1】若年発症:10〜20歳代が中心.

【2】臨床症状:腹痛,下痢,発熱,肛門部病変,体重減少などがよくみられる.時に腹部症状を欠き,不明熱,貧血,肛門部病変で受診することがある.まれに腸閉塞,腸穿孔,下血で発症する.

【3】消化管病変:小腸および大腸の縦走潰瘍,敷石像,腸狭窄,内瘻形成に加えて,胃・十二指腸にも多発アフタ,不整形潰瘍などが認められる.

【4】肛門部病変:難治性痔瘻,肛門周囲膿瘍,裂肛,皮垂(skin tag)などがある.

【5】腸管外合併症:口内アフタ,結節性紅斑,関節炎,虹彩炎,肝障害,胆石症,尿路結石,成長障害,月経異常などがみられる.


検査とその所見の読みかた
【1】一般検査所見

 赤沈亢進,CRP陽性,α2グロブリン増加などの炎症反応,低蛋白血症,低コレステロール血症などの低栄養,ビタミン欠乏状態がみられる.本症に頻度の高い小腸機能異常(吸収不良および蛋白漏出など)により栄養不良症をきたしやすいためと考えられている.また鉄欠乏性貧血と血小板数の増多などが認められる.

【2】消化管X線検査
 小腸および大腸二重造影検査を行う.小腸では縦走潰瘍と偏側性狭窄,大腸では敷石像が主体となる.他に種々の形態の潰瘍,多発アフタ,裂溝,瘻孔などを認めることがある.
 主病変の部位により,小腸型,小腸・大腸型,大腸型などに分類する.

【3】内視鏡検査
 大腸内視鏡検査では上記の潰瘍所見とともに周辺粘膜の性状にも注意する.上部消化管内視鏡検査では,胃前庭部,および十二指腸に小びらんや潰瘍を認めることがある.内視鏡下生検は,病変部および正常にみえる部分からも採取する.小潰瘍のみからなる病変の場合,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の証明は診断上の重要な参考所見となる.


非定型所見および鑑別疾患
【1】アフタ様びらんのみの大腸病変潰瘍性大腸炎(UC),感染性大腸炎,アメーバ赤痢,腸管型Behcet病などがある.糞便および生検組織による細菌検査.生検による炎症の特徴と非乾酪性肉芽腫の検索が必要.

【2】大腸の縦走潰瘍:虚血性大腸炎では高頻度に,またUCの経過中数%に認められる.いずれも浅い潰瘍が主体で,潰瘍周囲粘膜の発赤,炎症所見は高度であるが敷石像はまれである.虚血性大腸炎は発症および経過に特徴がある.

【3】小腸の輪状狭窄,回盲部の変形:腸結核や単純性潰瘍を鑑別する.Crohn病ではどこかに縦走潰瘍(瘢痕)の形跡が認められる.腸結核の回盲部変形(直線化)は有名.非乾酪性肉芽腫は腸結核でも認められる.Crohn病は腸間膜付着側,単純性潰瘍や腸管Behcetでは腸間膜反対側の潰瘍が多い.


なかなか診断のつかないとき試みること
 アフタ様病変のみの場合,【1】〜【4】を試みる.
【1】全消化管の検索
【2】生検組織の連続切片(50枚以上)で非乾酪性肉芽腫を検索する.
【3】経腸栄養剤またはサラゾスルファピリジンによる治療で経過観察を行う.
【4】数カ月から数年で典型的Crohn病となる例がある.炎症反応(赤沈,CRP)の追跡.画像診断では,大腸内視鏡検査または小腸二重造影検査を定期的に行う.


予後判定の基準
【1】予後を左右する因子

@腸管病変:小腸主病変の範囲,狭窄部の長さと口側腸管の拡張,内外瘻の部位と程度.
A腸管外病変:肛門病変の程度,腹腔膿瘍,低栄養状態.
B重症度,活動性の判定:CDAI,IOIBD,Dutch AIなどCrohn病活動指数の算定法がある.

【2】手術適応と時期
@適応:腸管狭窄(腸閉塞),内外瘻,膿瘍および腹部腫瘤,穿孔,大出血,発育障害など.
A時期:完全静脈栄養や成分栄養療法の継続にても改善しない上記の腸閉塞症状,瘻孔および膿瘍を認めるとき.副腎皮質ホルモン剤の離脱困難例で副作用の出現時.


治療法ワンポイント・メモ
【1】完全静脈栄養療法の適応:重症例の急性期,高度の瘻孔,狭窄例.外科手術前後の栄養管理目的.
【2】経腸栄養療法の適応:中等症例のprimary therapy,重症例の回復期,寛解維持目的.
【3】副腎皮質ホルモン剤:広範,重症例の増悪期.栄養療法やサラゾスルファピリジンでコントロールできない再燃例.腸性関節炎,結節性紅斑,虹彩炎などの全身性合併症を有する例.
【4】サラゾスルファピリジン(サラゾピリン(R)):大腸病変主体の軽〜中等症例.皮疹,悪心,頭痛,血液障害などの副作用の出現(数%)に注意が必要.
【5】メトロニダゾール(フラジール(R)):肛門病変に有効な場合がある.副作用として,消化器症状,末梢神経障害などがみられる.
【6】公費負担:厚生省特定疾患であり,管轄の保健所へ申請書を提出すると医療費補助を受けられる.


長期経過
【1】累積手術率:再燃を繰り返すごとに腸管合併症などが進行し,診断後5年で25〜40%,10年で45〜60%の累積手術率となる.
【2】術後再発率:画像診断による詳細な経過観察を行うと,術後6カ月〜2年で吻合部と口側小腸に50〜80%の再発が認められる.アフタ様病変から縦走潰瘍,敷石像まで種々の病変へ進展することがある.


さらに知っておくと役立つこと
 Crohn病診断基準(改定案)について:わが国のCrohn病診断基準(案)は,WHOのCIOMS(医科学国際組織委員,1973)より提唱されたCrohn病の概念に基づき,1976年日本消化器病学会Crohn病検討委員会によって発表され,利用されてきた.その後の臨床例,とくに経過観察例の増加に伴い,アフタ様ないし不整形小潰瘍のみからなる非定型例から典型的Crohn病へ進展する症例が集積されてきた.このようなわが国の状況を考慮し,実用的診断基準として提示されたのが,厚生省特定疾患調査研究班(武藤班)による改定案(1995)である.